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砂ワールド
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■講義
砂丘研究の明日をめざして(W)
中国の乾燥地をめぐる諸問題
中国乾燥地の気象特性
果樹・作物栽培にみる乾燥地農業の知恵
乾燥地の沙漠化と流砂
当講座の内容は、日本砂丘学会様よりご提供いただいた「市民公開講座」(平成 9年〜12年)テキストの内容を掲載しております。
掲載をご承諾いただきました 諸先生方に謝意を表します。
中国乾燥地の気象特性
鳥取大学乾燥地研究センター
神近 牧男
はじめに
平成12年3月の朝日新聞に掲載された「砂漠と隣り合わせの首都」の記事には、今年の北京における頻繁な砂嵐のことが書かれている。近年は2,3回であったものが、今年は7,8回あったということである。その原因は、今年の冬から春の降水量が異常に少なかったと言う気象条件にあるとする一方、中国における砂漠化が影響しているのではないかとの懸念を述べている。北京で観測される砂嵐の回数は少ないが、大規模な砂嵐の全国的な回数は年々高まっていると言う。記事に示されたデータによると、1950年代が5回、70年代は13回、90年代は23回に急増していると言うのである。日本から見る春の風物詩である“黄砂”も、中国では深刻な国土の問題なのである。
中国の砂漠および乾燥地は図1のような分布をしている。砂漠化を防ぐために、中国政府はこの春以来、一段と西北地域の保全と開発を強化することを決めたと言う。
本日は、中国の砂漠および乾燥地形成の要因と乾燥地をめぐる諸問題を理解するために、中国の気象について述べてみたい。
地勢と風系がつくる中国の乾燥気候
倉嶋ら(1964)のアジアの気候によれば年降水量500oは農業の限界を示す値であり、これ以下の地域では、人工灌漑やその他の特別な方法をとらなければ農業を営むことができないと述べている。アジア大陸の年雨量分布図(図2)を見ると、500oの線は、中国を2分している。これより西・北の部分は降水量が少なく、いわゆる乾操地に相当する地域である。すなわち、中国の乾燥地域は、中国のおよそ半分に相当し、北部と西部に偏って分布している。なぜこのような偏りが生じるのであろうか。
中国の地勢
中国の国土は広大であるが、地勢は比較的簡明である。図3は地勢を示したものであるが、南西部のチベット高原(5000m以上)、中間的高原地帯(1000−5000m)および低平地帯(1000m以下)に塗り分けられる。乾燥地は中間高原地帯の北の部分を占めていることが、図1とあわせて見ると判る。また、この地帯には、多くの盆地状地形が在り、後述のように砂漠形成に関係している。
中国の風系
中国南東部は、モンスーンアジアと呼ばれる気候帯に属している。モンスーンとは、冬は大陸から、夏は海洋から恒常的な風が吹く季節風のことを言う(図4)。この気候帯では、冬のモンスーンでは乾季となり、反対に夏のモンスーンでは雨季となる地域が多い。したがって、中国南東部(低平地帯)では、夏の間に多雨となり年間降水量も多いため乾燥気候とはならない。
広大な中国国土の北部・西部は、このモンスーン気候とは隣り合わせではあるが外れており、海洋から遠く離れているため、大陸性気侯となり乾燥している。すなわち、多量の降雨のもとになる水蒸気は、主に海洋上で空気中に供給される。水蒸気を含んだ空気は移動し、山脈などの地形や、前線などの影響で上空に持ち上げられ、空気が冷えることによって雨となり降り注ぐ。図5は、中国モンスーン気候帯の雨季に相当する夏(7月)の平均気圧分布と気候学的前線帯を示したものである。
中国大陸には、インド洋、東シナ海から大量に水蒸気を含んだ風が上陸するが、ヒマラヤ山脈、チベット高原および熱帯前線帯に行く方を阻まれて空気中の水蒸気を失うために、海洋から離れた中国北部・西部では乾燥気候(大陸性気候)が形成されるのである。
とくに、タクラマカン砂漠などが分布する北西部は、盆地状の地形となっており、厳しい乾燥状態がもたらされている。この乾燥地域は、地形が原因となり形成されるもので、雨陰砂漠と呼ばれる。
したがって、中国の乾燥地は、乾燥をもたらす種々の要因が重なる西部に行くほど降水量が少ない傾向がある。
また、乾燥地の降水量は、図6に示されるように変動が大きく、気まぐれである。すなわち、雨がほとんど降らない年が数年続くかと思うと、洪水を引き起こすような大量の雨が短時間に降ることもある。図2に示される降水量は、あくまでも数十年の平均値であり、中国北部・西部の乾操地域の降水変動率は、30%と大きな値を示している。
ここで、降水の変動率は、以下の式により求めている。
降水の年変動率=(A−Ai)/n・A
A
:
平均年降水量
Ai
:
各年の年降水量
N
:
統計年数
気温の年較差が著しい中国の乾燥地
中国はユーラシア大陸の中心から外れ、東側に偏った位置にある。気侯の分類のひとつに東岸気候と言うものがあり、中国、日本などはこの気候の影響を受けている。すなわち、北半球では、北の空気は冷たく、南の空気は暖かい。風系の図に見られるように、冬の風は高緯度地方から吹きおりてくるため気温は極度に低くなる。反対に夏の風は低緯度地方から吹きあがってくるために気温が高くなる。これは、風系を形成する陸上(冬)、海上(夏)の高気圧性の渦の性質(時計回り)によるものであり、大陸西岸と比較すると理解しやすい。すなわち、西岸気候は、冬に南風、夏に北風となるため、気温の年変化が小さい。
中国西北地区の乾燥度分布特性
乾燥地には気象データが充分そろっていないことが多い。必要とする観測データがない場合に、他の観測データを組み合わせて間接的に(経験的に)新たな気候値を推定することが行われる。例えば日射量を日照時間から推定する方法などがよく知られている。
一方、気象データに基づいて、気候の特徴を表す気候指数を求めることがよく行われる。乾燥地を理解する上では、乾燥の程度を知ることが必要であるが、「乾燥度」の概念はこの部類に入る。
あるとき、「乾燥地とは蒸発散量が降水量を上回る地域を言う」と説明してお叱りを受けたことがある。これは、蒸発散量が降水量を上回るはずがないと言うことである。降水量を上回るのは、蒸発計蒸発量あるいは気侯学的に推定された可能蒸発散量であって、注釈が必要なのである。
可能蒸発散量とは、植生が十分に茂って土壌水分が十分な時の蒸発散量を言い、このようなときの蒸発散量は、周囲の純放射量、気温、湿度、風速などの気象条件から推定することができる。この値は、地表面からの水分損失の強さ(起こりやすさ)を示すものであり、地域別に雨量と比較することにより、乾燥の程度(乾燥度)を表すことができる。国連環境計画(UNEP)では、ペンマン(Penman)の式を用いて推定した可能蒸発散量(PET)と降水量(R)の比をとり、次のような乾燥度区分を行っている。
極乾燥(砂漠)
:
P/PET<0.05
乾 燥
:
0.05<P/PET<0.20
半乾燥
:
0.20<P/PET<0.50
乾性半湿潤
:
0.50<P/PET<0.65
図7は、中国の文献で紹介された乾燥度の分布を示したものである。中国の西部が種々の理由が重なって乾燥が厳しいことを述べたが、乾燥度指数を用いることにより、それが示されている。
自然植生の純一次生産力
気象データを用いて気候とは異なる他の概念を算出することがある。一例として、自然の植生は気象の影響を受けて生育するが、その地域的な生産力を気候学的に推定する方法があげられる。すなわち、純放射量と降水量からその地域が有する潜在的な自然植生の生産力を求めるものである。図8は、内蒙古の気象データから推定された自然植生生産力を示したものである。
この図から、雨量が200mm未満では生産力はゼロであり、200〜300mmを超えると、雨量が増すごとに生産力が高くなることを示している。また、降水量が、700o未満の乾燥条件では、純放射量と生産力は反比例の関係にあり、日本の感覚、「日照時間が多いほど作物の生産がよくなる」傾向とは異なることがみとめられる。さらに、灌漑が可能であれば、植物生産が増加することを示唆していると言える。
おわりに
中国の気象特性を述べるとともに、気象データから種々の情報が産み出されることを述べた。これらの研究を、中国の乾燥地をめぐる諸問題の解決に役立てるよう努力していかねばならないと考えている。
引用文献
畠山久尚監修(1964)
:
アジアの気候、古今書院、東京
日本砂丘学会編(2000)
:
世紀を拓く砂丘研究−砂丘から世界の沙漠へ 財団法人農林統計協会、東京
劉明光主編(1998)
:
中国自然地理図集(第2版)中国地図出版者、北京(中国)
平成12年10月21日(土)開催「市民公開講座」テキストより転載
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