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砂ワールド
オンライン砂丘・沙漠講座
当講座の内容は、日本砂丘学会様よりご提供いただいた「市民公開講座」(平成 9年〜12年)テキストの内容を掲載しております。
掲載をご承諾いただきました 諸先生方に謝意を表します。
『砂ギャラリー』『乾燥地(中国)の農具』もぜひご覧下さい。

乾燥地(中国)の農具

鳥取大学農学部 岩崎 正美

  1. はじめに
     雨の少ない乾燥地では、どのような農業が営まれ、そこで用いている農具はどのようなものであろうか。ここでは、中国沙漠開発日本協力隊(隊長:遠山正瑛鳥取大学名誉教授)として1985年以降訪中のおりに農家や圃場で調査した伝統的な農具(在来農具)を紹介する。紹介する農具は乾燥地域にあっても天水のみに依存する農業(ドライファーミング)地域よりも、黄河流域やオアシスにおける「かんがい農業」の行われている野菜や果樹栽培圃場で使用されているものがほとんどである。

  2. 調査地の農具
     調査地点は黄河流域の周辺に分布する都市周辺の農業地帯および新彊ウイグル自治区を中心とするタクラマカン砂漠の周辺である。
    (1)耕うん、整地用農具
     鋤(チュウ):まず圃場をたがやすための農具として、各種の鋤がある。日本の鍬に相当するもので耕すだけでなく、土壌を細かく砕土したり、雑草を除去したり、土寄せ(培土)作業にも用いる。これらはいずれも鍛冶屋による手作り製品である。また、たがやしたり、かんがいのための溝掘りなどの作業には、量産品のショベルを利用する場合が多い。土中に貫入後すくい上げて反転、ショベルの裏面で叩いて砕土する。なお、このショベルに似た鉄鍬(テッチュウ)と呼ぶ手造り製品もよく見かける。
     坎土慢(カントマン):タクラマカン沙漠の南にあるホータンに住むウイグル族の伝統的な農具にカントマンがある。これは、刃床部に模様を刻んでおり、各々のカントマンごとにその模様は異なっている。非常に重く、木柄の貫入部(柄壷)周辺は鉄の塊を付けたような重量感をもつ。木柄をつけない状態で1.5〜4kgの範囲にあり、日本の鍬に比べて2倍以上の主さとなる。重いほど振り下ろす労力は少なくてすみ、土中への貫入が容易となる。特に砂地での作業に適しているであろう。ただ、磨耗が早く先端が平らになったカントマンを多く見かけた。大小種々の大きさがあり、用途別というより、使用者に合わせて小さいカントマンは女性子供用としてつくられたものと考えられる。ホータンに限らず中国では、女性、子ども特にまだ小中学生と思われる年少者が農作業に従事している光景をしばしば見かけた。彼らを欠かすことのできない労働力として頼っている社会環境がこのような種々の大きさのカントマンを生みだしているのであろう。
     なお、このカントマンはホータンでのみみられ、ウルムチ、トルファン、シーホーズで見かけたウイグル族がカントマンと呼ぶ形状は、より簡素な形状で漢族はこれを鍬(チュウ)と呼んでいる。
    (2)整地管理用農具
     鋤・手鋤:除草や土寄せ作業には種々の形状を持つ鋤・手鋤がある。これらの鋤は独特の曲がり部分を持つものが多い。これは衝撃の緩和、土壌や雑草のスムースな後方への流れなど機能的な役割を果たしていると考えられる。そして、手造りであるために民芸的な美しさを持っている。
     平耙(ピンパア):地均しや畝たて、土塊の破砕に用いる。ウルムチのカントマンの刃幅を広くしたもので地域によって打土硬(ターツーカン)とも呼んでいる。
     歯耙(ツーパア):2〜12本の爪をもち、粗雑な作りで爪の欠損が多い。
    (3)播種・移植用農具
     木製播種機(両脚):典型的なドライファーミング地域では、少ない降雨をいかに植物に有効に利用させるかにかかっている。そのためには、土壌面からの蒸発の抑制とともに高い能率での播種作業が要求される。両脚と呼ぶ畜力による2条用の木製播種機である。2本のすき先の上部にある種箱から種子が自動的にすき溝に落下する。後漢(25〜220年)末期に敦煌地方で使用されていた。高い能率で、現在もそのままの形態で見ることができる。乾燥地での播種作業の能率を高める必要性がこのような木製播種機の出現につながったであろう。なお、同じ構造で1、3条用の木製播種機もある。
     手:移植作業や細かい除草作業に適した手(チャンズ)も種々異なった形状のものを見かけた。日本でスコップ(移植ごて)として安価に大量生産されているのに較べ丁寧な手造りによるものが多い。
    (4)収穫用農具
     鎌:湾曲した刃を持つ鎌はウルムチやホータンなど新彊ウイグル自治区でみられ、直線刃はランチョウ以東で見かけた。


  3. まとめ
     年間降雨量500mm以下の中国の乾燥地域における農業は、土壌とのかかわり合いを持つ中耕除草用農具に多くの形態をみることができる。浅くたがやすことによって、雑草の防除とともに、地中からの毛管現象を遮断して土壌表面からの蒸発を抑制し、土壌中の水分を植物に有効利用する。そのための農具として、形状に富んだ鋤・手鋤が多い。
     一方で、植物に直接かかわる収穫用具などが東南アジアなどの湿潤地域に比較して少なく、自然の恵みに乏しい厳しい自然環境を物語っている。
参考文献

1)南満州鉄道(株)農事試験場編「改訂 満州の在来農具」農事試験場報告第29号、21-42、1930
2)岩崎正美、石原 昂、遠山正瑛 中国の乾燥地域における在来農具(第1報)砂丘研究 第32巻 第2号、1-7、1985
3)岩崎正美、石原 昂、遠山正瑛 中国の乾燥地域における在来農具(第2報)新彊ウイグル自治区の農具 砂丘研究 第33巻 第1号、48-60、1986


平成9年10月25日(土)開催「市民公開講座」テキストより転載

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